魔術師の錬金術

螺湮城教本の黄金に関連する記述とヒヒイロカネそして魚人が海底の泥中に蓄積した金を収集して人間が精錬するラインの黄金と錬金術がからむデモンベイン神話の物語。

ジョギング気功法

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ジョギング気功法


 【超能力気功法奥義】を片手に蒔寺が演説をぶち始めた。
「この〈本〉に記述された通りジョギング気功法を実践して苦節2年! 最近あたしも気の練り上げに成功した!」と蒔寺が言った。
「ちなみに私と由紀香も付き合わされた。普通の気功法を選べば良いのにな」と氷室が言った。
「でも運動が苦手なわたしでも、ゆっくりなら大丈夫だから」と三枝が言った。
 5つの注意を守ってジョギングすれば、それが即、気功法の代わりになると記述されている。
 ゆっくり、静かに、リラックスして、体をゆすりつつ、丹田に軽く意識を集中し続ける、という5つが概略である。
 気の感覚をつけるだけなら一日でもやれる。
 ただし素人だと気のパワーが根本的に不足しているため、ただ感じられるようになるだけの話で、それ以上トレーニングが進まない。
 ちゃんと気をコントロールして練り上げるために気功法を実践し続けて普通で一年くらいかかるし、早い人でも半年くらい必要だ。
 どこの学校でもコックリさんや百物語などのオカルトが生徒間に流行するものだが、この穂群原学園の場合、気功法らしい。
 学校も深い部分だと桜や遠坂などの魔術が秘め隠されているが、気功法なら実に健康的だ。
「蒔の字の場合、意識の集中が散漫ですぐ暴走するから2年もかかる」と氷室が言った。
「だって走り始めたらチンタラやってられないじゃんよー」と蒔寺が言った。
「あ、でも蒔ちゃん去年から、わたしに合わせてゆっくり走ってくれてるよね」と三枝が言った。
 三枝の体力に合わせて毎朝20分間限定のジョギング気功法を2年間継続したそうだ。
 仲良し3人組が楽しんだのだからジョギング気功法も無駄じゃないようだ。

ムームー話

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ムームー話


 先ほど教室で吹き散らした罵詈雑言よりも酷いことを親友達に言ってしまったから仲直りするため付いて来てくれと蒔寺から頼まれた。
 蒔寺を勉強させるため氷室と三枝が図書室にいる筈だと言うのだが一人で行けんのか。
「だってよーノリで言いたい放題に言っちゃったからさ」と蒔寺が言った。
「またウォー心あれば敵軍皆殺しみたいな意味不明なことを言いまくったのか蒔寺」
 口が災いの元という見本のような自業自得である。
 図書室の前に氷室と三枝がいた。
「あ、鐘ちゃん蒔ちゃんが戻って来た、衛宮くんも一緒だよ」
「蒔の字、衛宮に泣きついたか、遠坂嬢が泣くな」
「ゲゲ! 衛宮あっち行けよー!」
 無事に仲良し3人組が合流したようだが用済みとなった俺の扱いが少し酷い。
 ……引き時か。
「じゃ、失礼するよ。蒔寺、勉強ちゃんとしろよ」
「少し待て衛宮、私と由紀香だけだと、また蒔の字が逃げるから退路を暫らく塞いでいてくれ」と氷室が言った。
「カンズメだとー! あたしゃ漫画家かー!」と蒔寺が叫んだ。
 まあいい。
 図書室の出入り口に陣取って少し読書でもしてれば十分だろう。
 俺も勉強、バイトに明け暮れて余暇が少ないからリフレッシュに丁度良い。
 休むのも仕事のうちだ。
「蒔ちゃん勉強と関係ない本だよ?」と三枝が言った。
「これでいいのだ! さっき補習をあたしも受けたばっかだしさー」
「蒔の字が大好きなムームー話か」と氷室が言った。
 【超能力仙道入門】に【超能力気功法奥義】そして【魔法カバラー入門】が蒔寺の手にあった。

正義の味方みたいな真似

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正義の味方みたいな真似


 蒔寺みたいに学校の成績を犠牲にしてまで部活に励むように、俺も魔術師がらみの事件に係わり過ぎているようだ。
 正義の味方となることを諦めた心算だがクヨクヨと拘るような執着が残っているのだろうか。
 最近の案件としてアーチャーが新都ビルから橋にいた切嗣を発見したという情報があった。
 並行世界に関係する事件だと判断した遠坂がセイバーと組んで調査中だ。
 カレンも協力という名目で動いているようだが邪魔して遊んでいるようにしか見えない。
 俺も協力すべきかとも思ったが、そんな正義の味方みたいな真似をしても桜が悲しむだけだと学んだつもりだ。
 やはり桜の味方として普通の生活を送るため卒業を目的として学校の勉強に専念しようか。
 決意を新たにしながら帰宅するため鞄にノート類を詰め込んでいると蒔寺が何やら絶叫しながら廊下を疾走してきた。
「衛宮〜聞いてくれよう!」と蒔寺が言った。
 珍しいことだが部活を放り出してまで俺に相談事があるようだ。
 しかし何故だ? いつもなら何かあっても氷室や三枝と相談するだろうに。
「鐘だけじゃなく由紀っち〜! お前もか!」と蒔寺が言った。
 そこから切歯扼腕する蒔寺の聞くに堪えない罵詈雑言が始まった。
 かなりバイアスが掛かっていたが客観的に事実の断片を拾ってみた。
 要するに成績がギリギリで卒業が危ない蒔寺を心配した氷室と三枝が部活に参加することを妨害したというのだ。
 この場合、氷室と三枝の方が正しいだろう。
 蒔寺も有り余る体力を部活で使い切らずに歴史以外の勉強にも配分すれば付け焼き刃の学力でも卒業だけなら可能になるだろう。
 まあ俺も人の事を言えないが。

バカな三年生

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バカな三年生

 今日も放課後の補習が終わった。
「それじゃ衛宮くんと蒔寺さん明日も補習だからね?」と藤ねえが言った。
 教師という職責に忠実な女教師モードの藤ねえが教材の束を抱えて教室から立ち去った。
「部活行きたい……お勉強……死ぬ〜」と蒔寺が言った。
「蒔寺も日本史と世界史だけなら遠坂並みなのにな」
 単純に蒔寺の成績が悪いせいで連日補習だという。
 俺の場合、出席日数が足らないためだが五十歩百歩か。
 組が違う俺と蒔寺が一緒に補習を受けている理由として卒業が危ないバカな三年生の生徒が俺たち二人だけという単純な理由である。
「衛宮〜バイト三昧でいつ勉強してんだよ、このバカスパナ」と蒔寺が言った。
「お前が部活と日本史に情熱を燃やしている時間を勉強に充ててるだけだ」
 魔術師がらみの奇妙な事件に対応するため俺の出席日数が足らない理由を表向きアルバイトと称している。
 それに遠坂から魔術講義も受けているので学校の勉強が平均点の維持だけでやっとという現状だ。
 しかし蒔寺も日本史だけならば、うっかりミスで満点を逃すこともある遠坂さえ凌駕するのだから頭が悪い訳じゃないだろうに。
 体育や日本史などの好きな教科の授業以外、寝ているようだ。
「だって好きでもないことに本気出すなんてバカらしいじゃん」
「日本史繋がりで世界史の成績も良好なんだから他教科にも応用出来ないのか?」
「無理ムリ! あたしバカだぜ〜」
 開き直った蒔寺が部活に途中参加すべく立ち上がった。
 弓道部の美綴さえも桜に主将の座を譲ったというのに陸上部の蒔寺の場合、未だ部長の座に君臨し続ける心算らしい。
 そして体力を使い切って勉学が疎かになるわけか。
 俺も凡人なのに魔術師として修行しているから蒔寺と似た状況に陥りやすいから反面教師としよう。

第二魔法の真似事

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第二魔法の真似事


 アイリさんが動いた。
 両足から震脚による轟音が鳴り響き、螺旋状の動きが膝に、腿に、腰に、胴に、背に、肩に、肘に、手に、途切れることなく流れ、指に挟んだスターリングシルバーの刃が3本飛んだ。
 右、左、右、と三連撃により合計9本の銀刃がアヴェンジャーの心臓、頚椎、そして脳幹を体外に吹っ飛ばした。
 魔術に頼らぬ純粋な体術による鋼鉄の徹甲弾に斉しい作用であった。
 少なくとも十年間、足らぬ体術の才能を努力で補い修行し続けたことだろう。
 しかしアンリ・マユとて一柱の神。
 心臓や脳髄を喪失しようとも想念のみで活動可能だ。
 見えぬ目で天の星辰を睨み、聞こえぬ耳を蠢かして地の霊脈に耳を澄ます。
 その足元に時空の穴がポッカリと開きアヴェンジャーが足から、その中に飛び込む。
「あっはっはっは……!」とアヴェンジャーが哄笑した。
 自分自身を神隠しにすることで、この時空間から姿を消したようだ。
「この霊相の歪曲と筋道……私が所属する元々の世界に続いてる……!」とアイリさんが言った。
 アイリさんが持参の荷物を引っ掴み迷い無く穴に飛び込んだ。
 そして穴もろとも、この時空間から姿を消す。
 アヴェンジャーも条件さえ揃えば第二魔法の真似事が可能だ。
 アイリさんも鋭敏な感性で正確に事態を把握し対処したようだ。
 遠坂に頼めばイリヤとアイリさんの世界を覗き観る程度なら可能だろうが最早、俺のような凡人が干渉可能な範疇を凌駕した。
「エミヤシロウ……どうしましょうか?」とセラが言った。
 事態の展開に理解が付いて行かないようだ。
「とにかく俺の義体を組み上げてくれないか」
 こうして奇怪な事件が一つ終わった。

八卦掌の歩法と同じ

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八卦掌の歩法と同じ


 義体の整備が長引いて夜更けになった。
 突然、視界の隅に何か黒いモノが出現した。
 犬のような姿で長い毛が生えており爪の無い脚が熊に似ている。
 獣化形態のアヴェンジャーだった。
「アイリさん!」
 俺が声をかける前にアイリさんが片手に三本のペーパーナイフを錬成して構えていた。
 実戦に慣熟しているようだ。
 セラもアタフタと戦闘用の魔杖を用意しているが相変わらず実戦に向いてない。
 俺も全身義体としている真鍮の素体がバラバラだが投影魔術だけなら使用可能だ。
 アインツベルン城の三階工房が戦場になるかと思われた。
「ガタガタ騒ぐんじゃねえよ、お別れの挨拶に来ただけだ」とアヴェンジャーが言った。
 偽善者を忌み嫌い、殺人鬼のような悪人でも筋を通す者なら媚びてみせるアヴェンジャー独特の礼節か。
 戦闘目的で前に進むことも無いようだ。
 アヴェンジャーが自分の尻尾を咥えようとする愚犬のように、その場でグルグルと回っているだけだ。
 だが正確に八歩で一周する八卦掌の歩法と同じだと気付いた。
 休、生、傷、杜、景、死、驚、開の八門を犬足でありながら正確に踏んでいる。
 唐突に立ち止まったアヴェンジャーが窓から空を見て笑っていた。
「月が満ちる夜の暦が遷ろう時だ」とアヴェンジャーが言った。
「奥様! 満月です!」とセラが言った。
 確かに満月が中天にかかっていた。
 満月や新月の時に普段じゃ考えられないような出来事が起こる確率が高い。
 古くから満月、新月に儀式などの大切なことを実践する魔術の流派も多い。
 混沌の化身たるアヴェンジャーの歩法で何かが起こる。

スターリングシルバーの刃

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スターリングシルバーの刃


 アインツベルン城の三階工房でセラに義体の整備と顔面の修復を依頼しようとしたところアイリさんがゴソゴソと持参の荷物を漁り始めた。
「シロウくん! セラをフワフワワウワウたぶらかす前に注目!」とアイリさんが言った。
 アイリさんの手に現代的なヘルメットがあった。
 米軍制式採用の抗弾樹脂製でライフル弾の直撃でも貫通しない代物だ。
「元々の世界だと切嗣と私で小規模な民間軍事会社を経営しているのだけど」
 そう言ってアイリさんがヘルメットを宙に投げた。
 次の瞬間、ズカッと音を立ててアイリさんが投げた銀のペーパーナイフがヘルメットに突き立った。
 抗弾樹脂の装甲を貫き穿ち、強化魔術で魔力が籠められたスターリングシルバーの刃が柄元まで埋まっている。
 歩兵の頭など木っ端微塵に粉砕する大口径の徹甲弾と同等の威力だ。
「私も現場に出る機会が多いから手裏剣術の一つくらい心得てるって覚えてね?」
 そう言ってアイリさんがニッカリと笑った。
 修羅の笑みであった。
 吹っ飛んで壁に激突した後ゴロゴロと床を転がるヘルメットが何だか俺の生首に思えた。
「奥様、御安心くださいませ。エミヤシロウにそんな度胸など御座いません」とセラが言った。
 もしも浮気すれば桜が憤怒して黒桜に変身するし、それ以上の恐怖など思い付かないな。
 何とかアイリさんも納得してくれたらしく、やっとセラが全身義体の分解整備を始めてくれた。
 俺の未熟な投影魔術で具現化した部品だと工作精度が低くて合いが悪い。
 アーチャーならベアリング一つとして歪みも狂いも無い精確な部品を投影してガタ無しブレ無しの精密機械を具現化するのだが、釣りの自動制御式リールなどを作って遊ぶばかりだ。
 俺も未だ修行が足りず余裕も足りないな。

ヒヒイロカネの磁気操作特性

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ヒヒイロカネの磁気操作特性


 座標を流されながら拡散消滅し続ける混沌球体・天の逆月から犬のような黒い獣が落ちてきた。
 猫のように俺の目の前で着地した獣が全身の紅い呪紋をモニョモニョと組み換えながら立ち上がった。
 俺と似せた外装を纏ったアヴェンジャーだ。
 アヴェンジャーがヒヒイロカネの鎖で宙吊りの螺湮を見上げた。
「ロリ相手にサドプレイかよペド野郎」とアヴェンジャーが言った。
 好きで吊るしている訳じゃない。
「冗談だよ冗談。オレが今回の負けを認めたんだ、そのチビも大人しくするだろうよ」
 どうやら螺湮が事態収拾に神霊召喚を決意した原因がアヴェンジャーだったらしい。
 鋭敏な感性を持つ螺湮にアヴェンジャーが干渉したのか。
 ヒヒイロカネの鎖を解いて螺湮を降ろしたが何事も無かったかのように茫洋とした眼差しで突っ立っている。
「楽しく盛り上げるためにセイバーや桜が来るように仕込んでたんだが言峰が頑張ったせいで無駄になっちまったしな」
 聖杯戦争で一時的に言峰が俺の援助者に回ったことがあった。
 事件の裏で今回も援助してくれたのか。
 この余分を娯楽として楽しむと言峰が言っていたがアイツの気紛れで助かった。
 セイバーが来れば第四次聖杯戦争における海魔の教訓から螺湮の殺害を即断即決しただろう。
 桜が来れば安全のために手段を選べない俺が螺湮を殺していただろう。
「冬木の地なら少しばから反則が効くから【螺湮城教本】の神霊召喚で海神じゃなくて完全体のオレが出られる」
 最大の力と形態を持つアヴェンジャー、悪神アンリ・マユか。
「ちょっと最弱最大って矛盾に興味があったんだが実験失敗だ」とアヴェンジャーが言った。
「アヴェンジャー……その下らない興味だけで全人類を滅ぼす気か?」
「オレはオレの欲求を優先させてもらうぜ」
 これ以上の会話など無駄なのでヒヒイロカネの『干将・莫耶』を投影してアヴェンジャーに振り下ろした。
 アヴェンジャーが具現化した双剣『タルウィ・ザリチェ』に受け止められ拮抗する。
 ヒヒイロカネの磁気操作特性で干将・莫耶を引き合わせタルウィ・ザリチェを鋏み砕く。
 その隙にアヴェンジャーが霊体化した。
 黒曜石の義眼で霊視してみたが既に退いていた。
「ぱどれ」と螺湮が言った。
 螺湮が俺の胸に頭を押し付けながら抱きついた。
 俺の裡に帰りたいという意志表示だ。
 固有結界を限定展開し螺湮の全身を球状に包み込む。
 結界が完全に閉じ胸中の心象風景に直結すると同時に螺湮が帰還した。
 さてと。
 セラに義体の整備と顔面の修復を頼まなければならないがアイリさんに何と言い訳すれば良いのか。

ヒヒイロカネの縛鎖

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ヒヒイロカネの縛鎖


 力尽くで螺湮を止めようにも本質がAランクの宝具であるため単純に俺より強い。
 だからと言って剣で殺すのも嫌だ。
 桜に有害な展開となれば手段を選んでられないが未だ時間の猶予がある。
 螺湮の人格を分析すれば海神に対して熱狂的な信仰心を持つ狂信者である。
 だが真アサシンであるハサン・サッバーハでさえも『一なる神のほかに神なし』という信仰を持っているが肯定的現実主義者だから会話可能だ。
 言葉による説得を選択した。
「螺湮やめろ俺なら怒ってないから強引に事態を収拾する必要なんて無いんだ」
「……ら、ら……かみさま……」と螺湮が言った。
 聞いちゃいねえ。
 茫洋とした眼差しで虚空に浮遊する海神の未来を幻視しているようだ。
 トランス状態というやつらしく神入って絶頂キメてる危ない目つきである。
 螺湮の場合、信仰に関係すると極端な楽天的理想主義者に変貌するから意志疎通が不可能になるようだ。
 トランス状態で感性と悟性が上がる代わりに知性と理性が下がっているのか。
 他人にとって精神が錯乱しているのと大差ない。
 仕方がないのでギルガメッシュの宝具である『天の鎖』を投影魔術で具現化した。
 英雄エルキドゥの名を冠する対神兵装だ。
 捕縛した対象の神性が高ければ高いほど硬度を増す『神を律する』ものである。
 螺湮の魂も混沌属性であるが神性が高い。
 螺湮の神性がAランクであるため普通なら単なる頑丈な鎖が堅固な牢獄と成る。
 可哀そうだが仕方が無い。
 硬く冷たいヒヒイロカネを螺湮の四肢に巻きつけ口にも轡のように咬ませた。
 ヒヒイロカネの重力制御で螺湮の小柄な身体が宙吊りになる。
 ヒヒイロカネの縛鎖で螺湮を拘束すると虚空に開きかけていた暗黒の門が閉ざされた。
 擬装用コンタクトレンズを外して黒曜石の義眼を起動し虚空を霊視する。
 時間の流速が変動しているものの世界による修正の許容範囲で安全圏内だと観測した。
 少し待てば、この世界において『孔』となりかけていた神気と瘴気の混沌球体もアインツベルン城の上空で雲散霧消することだろう。

ジル・ド・レェと同じ安易な選択

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ジル・ド・レェと同じ安易な選択


 俺も魔導書【螺湮城教本】の化身である螺湮を追うため窓から外に飛び出した。
 聖杯戦争でもイリヤを助け出す時に飛び降りたが無事に着地した。
 だが今回の身体が真鍮を主体としていたことが誤算だった。
 鋼鉄の骨格、鉄塊の心臓、鉄管の血管、水銀の血液、それらの重量と自重が真鍮の装甲を歪め砕く。
 魔力の持続性が低い鉄と違って、銅も軌道転位単原子元素となるから魔力を籠めると簡単に抜けない。
 銅と亜鉛の合金である真鍮に魔力を籠めることで重力を半減させ実際の体重を誤魔化していたのだが慣性を制御してるわけじゃないし質量もそのままだから停まると軽いが動くと重い。
 踵に位置する体液交換バルブが割れ砕けて水銀の血液が噴き出した。
 投影魔術で鉄と真鍮を組み合わせた部品を具現化して修復する。
 それから鉄塊の心臓内部で魔力充填水銀『月霊髄液』を投影し不足した血液を補充する。
 水銀も軌道転位単原子元素となるから魔力を籠めるのが容易だ。
 しかし魔力と時間を浪費してしまった。
 その隙に螺湮が事態を悪化させようとしていた。
 かつて古代ギリシャ演劇で収拾がつかなくなった物語を解決する小道具として機械仕掛けの神を多用するという御都合主義が流行した。
 螺湮も困った時の神頼みというジル・ド・レェと同じ安易な選択をした。
 可愛らしく美しい少女が両手を左右に広げてクトゥルフ賛歌を歌い出す。
「くぅ〜りとぉ〜りとぉおふ〜うがふなぐるうふたぐん……」
 海神を祝う呪文で虚空から神気と瘴気からなる混沌が汲み上げられる。
「るううぅぅ・りぃぃええ! いあ! いあ! か、みさま……っ! かみ……さま……ら! ら!」
 渦動する混沌が虚空に『孔』を穿ちそうだが、それを許せば悪神アンリ・マユが降臨しかけた第四次聖杯戦争の二の舞だ。
 確かに神だろうがヒトに災厄をもたらす悪神か邪神の類が出現する。
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【秘術超能力気功法奥義】